『無題』
王美珠(関西地区主事)
 今回、皆さんと分かち合いたい聖句はコロサイ2章5‐6節である。この聖句はコロサイ書において、軸となった聖句である。キリスト者としての肝心な信仰姿勢が記されている。

 「あなたがたは、このように主キリスト・イエスを受け入れたのですから、彼にあって歩みなさい。キリストの中に根ざし、また建てられ、また、教えられたとおり信仰を堅くし、あふれるばかり感謝しなさい。」

 コロサイの人たちの信仰の土台は、イエス様を「キリスト」(油注がれた者)として、「イエス」(救い主)として、また「主」として受け入れたというところにあるのだ。このイエス様に関する3つの名称はどれも切り離してはならない。一つを偏重してもならない。ところが、「主」であるイエス様より「救い主」であるイエス様の方が断然、多く耳にするという気がする。なぜでしょう?「救い主」であるイエス様の方が、受け身でいられる信仰生活というイメージが強いのではなかろうか。もちろん言うまでもなく、救いは神様の一方的な恵みであり、人間の努力によるものではない。しかし、「救い主」であるイエス様のみを強調したら、私たちの信仰生活も偏りかねないに違いない。「救い主」であるイエス様が私のために何かをして下さるだろうという考えから、「主」であるイエス様の支配下に生活のすべてを置くという考えへと展開させないと、霊的な成長は期待できないだろう。言い換えれば、もし私たちがイエス様を「救い主」として本当に受け入れるなら、日常生活において「主」であるイエス様の主権を自然に認めるようになると思う。そうなると、勉学、異性との付き合い、就職活動、罪、などを、すべてイエス様に明け渡すことができるのではなかろうか。主にあっての歩みはまさにそうだ。「歩みなさい」という言葉は、「生きなさい」という意味なのだ。しかも、単なる一時的なことではなく、継続して「生き続けなさい」という意味合いが含まれている。

 次は、ここで使われている4つの動詞に注目しよう。「根ざす」と「建てる」という動詞はセットとなっている。面白いことに、この2つの動詞の時制が違う。ここでの「根ざす」という動詞の時制は完了形であり、「建てる」という動詞は現在進行形である。これは、コロサイの人たちの信仰は、もう既に確立されていたということを指している。そして、止まることなく、信仰の根を伸ばし続けていくことが期待される。次の2つの動詞、「堅くする」と「感謝する」は、両方とも現在進行形である。言うまでもなく、コロサイ人は回心以来、既に信仰を堅くするようにしている。1:6に書いてあるように彼らは「福音を…本当に理解し…勢いをもって…」と書いてある。「信仰を堅くする」の意味は、正しく聖書を理解することはもとより、なおかつ救われた意味を吟味した上で、外へと積極的に働きかけること。つまり、彼らは教えられたことを単なる知識として受止めるだけではなく、実践に励んでいたのである。私たちも例外ではない。そして、最後の「感謝する」ということは、クリスチャン生活においての柔軟剤であるように思う。私たちの心が頑なになることを防ぐのに欠かせない要素である。獄中にいるパウロが書いた手紙であるので、感謝とは何かをより理解することができるだろう。感謝できることは、神様の主権を認めていることに他ならない。

 この箇所を通して、奉仕について考えさせられたことがある。学生があれをやりたい、これをやりたいということはしばしばある。もちろん、主事としてありがたいことであると同時に、不安を感じることも否めない。何のためにやるのか。誰のためにやるのか。単なる自己満足のためではないかと、半信半疑で思ったこともある。ここで一緒にチェックしよう。もしその神様に仕えたいという気持ちが、神様との交わりの故に、沸き上がってきたものではないならば、用心すべきだ。危険信号なのだ。言い換えるならば、私たちの奉仕はキリストに根ざした信仰からきたものでなければ、長続きはできない。日照りやいばらに襲われると、最後まで貫くことができないからだ。

 学生の皆さん、奉仕をやる前に是非、神の御前で自分の動機を探ってみる、いや探ってもらうことにしよう。そうでないと、奉仕は単なる自己満足を満たす手段、また自己アピールする場となりかねない。信仰生活を送る上で、根源である神様から日々供給していただかなければ、真の霊的な提供(奉仕)も無理だろうと思う。

 終わりに、一つの英語の言葉を紹介したい。「人間」は英語で"Human Being"と訳す。なぜ、"Human Doing"と訳さないのか。正確な理由は知らないが、もしかしたら人間らしさの根本的なところは、存在そのものにあるように思う。同じように信仰生活において、Being(キリストに根ざしたこと)とDoing(奉仕)が本末転倒にならないように、心得よう。
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